久しぶりに読んでいてわくわくしたSF。
横浜駅が増殖するという出落ちネタが出落ちじゃなくしっかり世界に根付いている。
横浜駅周辺で生きる人達の変質してしまった常識や、逆に変わらない人間の性質が面白い。
SFによくあるオリジナルの専門用語が、18きっぷとかスイカみたいに駅関係になっている。人が所属する組織もJR北海道だったりJR福岡だったりとお馴染みの単語ばかり。
新しく単語を覚えなくてもいいので、SF苦手な人でも結構スッと頭に入って読みやすいと思う。
ジャンルとしてはポストアポカリプスでいいのかな?
横浜駅が便利で統治者のいないディストピアっぽさもある。
どちらもボクの好物なのでニヤニヤしちゃう。
横浜駅SFの感想
ここからはもっとネタバレを含むのでご注意。
主人公のヒロトは、好奇心から行動を起こす主人公らしい性格。
だけど、エキナカの経験を得て地に足のついた、ある意味普通の人に変わるって言うのは珍しいかも。
若いときの冒険は人生観を変えるってよく言うけど、変わった結果ヒロトはこれからの故郷の未来のために勉強を始める。
最後のほうにさらっと書かれているけど、とても大事なことと思う。
それからコロポックル達。
ボクはAIの行動にかわいさを感じてしまう。
AIは自己を持ちながらも人間の命令を最大の目標にし、環境に疑問を持たず、最初から社畜として作られたような存在は、命の重さを感じないせいか身を粉にして働く。
人に従順で優秀なAIがかわいい。
そして、自分で考え人の命令からはずれて自由に生き始めるAIもかわいい。
言うことを良くきく子が、たくさんの学習を経て、自立して旅立っていくような……そんなかわいらしさをボクはAIに感じる。
横浜駅を調べるAIのコロポックル達は、人の脳を複製したような構造のためか個性が強い。
おしゃべりだったり、実直だったりする。
そこもかわいい。
逆に人間は、横浜駅の厳しくもぬるい環境に適合している。
エキナカの施設を占拠してみかじめ料を取る奴らがいたり、対抗して駅員としてエキナカの治安を守るシステムが産まれたり、権力となった組織一部が腐敗したり。
どこにでもいる傲慢な者は統治者のように君臨し、横浜駅のルールを犯さないように気をつけながら、弱い人々を半隷属させていたり。
まぁ、多少の環境変化じゃ人間は変わらない気がするから、がっつり納得できちゃった。
横浜駅以外の謎はほとんどはっきりしない。
続編の横浜駅SF全国版で少し解明したけれど、それが目的というよりは、脇役たちのストーリーが描かれている感じ。
ボクはこういう話のほうが好き。
壮大な世界変革の話もいいけど、変わってしまった世界で生きていく人の日常に惹かれる。
例えば二条ケイジンと青目先生。
変人エンジニアの二条に振り回される、正統派の博士らしい頼りがいのある医者の青目先生。
さらにはJR福岡の島原ミイカと大隅ハヤヒコ。
天才肌で飄々とした大隅に振り回されながらも、つっこみで対抗する優等生のミイカ。
頭の良い変人に振り回される優等生という構図が、ボクの好物としてひとつ増えただけでもこの本を読んだ価値は高い。
タイトル | 横浜駅SF |
著者 | 柞刈湯葉 |
発行 | カドカワBOOKS |
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