赤いライトに照らされたプールに軽量超硬アルミ合金の骨格が沈められていく。
首の後ろからは何十本ものコードが飛び出し、その信号が映し出されたモニターでは、目視不可能な速度で数字が変化している。
「神経系は全て骨格に内蔵されている為、フェイズ1で、いきなり補助筋肉を合成します。この点が義体とアンドロイドの構築で一番異なる点です」
白衣に身を包んだ女性が、モニターを注視しながら説明する。彼女もアンドロイドであり、ワイヤレスでこの構築マシンを制御している。
今日は、メタヒューマンインダストリアルコーポレーションのアンドロイド構築見学会。
将来を担うエンジニアの卵達が、わいわいざわざわとしながらも最先端技術に感嘆のため息を漏らしている。
パチパチと小さな火花を上げながら、プールと骨格に電流が流れ始めフェイズ1の工程がスタートした。
電子を追いかけるようにナノマシンが並び、プールに溶け込んだタンパク質を使って腱を合成する。
腱が完成すると電流が止まり、骨格からのパルス信号を頼りにナノマシンが誘導され、腱の終端が骨と結合された。
続いて腱をガイドに筋肉が合成されていく。
合成速度はかなり早くあっという間に骨格全てを覆ってしまった。
見学者から小さく歓声があがる。
「骨格だけで駆動できる為、あくまで補助用の筋肉です。または人間らしいシルエットを作るための飾りとも言えます」
フェイズ2は、皮膚の合成。
筋肉を覆うように薄い皮膚が合成されていく。
同時に、皮膚と筋肉の間にクッション用のゲル材が、フレームから伸びたアームによって注入される。
脂肪の代替品であり、いれる箇所や量によって男女の性差を表すことも可能である。
今回は女型だった。
一通り見た目ができあがったところで目、耳、舌、歯、声帯など各機器を埋め込む。
軍用アンドロイドであれば四肢にナイフや銃、ワイヤーなど、セクシャロイドであれば性器をここで埋設する。
「生成した皮膚を切り開く必要がある為、どうしてもひと手間かかってしまうのですが、事前に埋め込む場合より埋設位置の融通がきく為、より細かくカスタマーのご要望に応えられると弊社では考えております」
埋設後、骨から微弱な電流を流し、その電流をさかのぼるようにナノマシンが整列、皮膚から骨、そして内部の神経系を繋ぎ、触覚を形成する。
埋設機器もこのナノマシンを使って神経系と接続され、操作することになる。
「後で機器を埋設する場合より、基盤のナノマシンで神経系と繋がれる為、実際に操作する際、細かい制御が効くと言われています」
フェイズ3、髪やまつ毛などの植毛。
「昔はあらかじめ形成していた体毛を植えていたのですが、このマシンではプールに残った僅かなタンパク質でも十分な量の体毛を形成し、植毛まで一気に行えるようになりました」
ライトが赤から通常の白色に代わり、完成した素体がプールから引き上げられた。
白衣のアンドロイドが完成した素体にバスローブをかける。
「以上をもって、アンドロイドの構築工程はすべて完了となります」
「すいません、質問いいでしょうか? 疑似人格などはこの後インストールするのですか?」
見学していた若い技術者が質問する。
「いいえ、骨格形成後にインストール済みです。試しに起動してみましょうか」
白衣のアンドロイドがそう言うと、素体の目がぱちりと開く。
「ファーストブートシーケンス、オールクリア。皆さんはじめまして……」
ここまで言ってから一瞬、間が空き、
「名前はまだありません」
と、微笑んだ、
見学者から大きなどよめきが上がり、拍手が起きた。
素体が形成の為のフレームから降り、かけられていたバスローブを着て見学者に会釈した。
「それでは質問会を別室で行いますので、移動お願いします」
白衣のアンドロイドに促され、見学者達が移動を始めた。
残った従業員が後片付けを始める。
「今回から見学者は全員アンドロイドなんだって?」
「あぁ、もううちの会社じゃ人間は雇わない方針だそうだ」
「権利ばかり主張するくせに、仕事できないからな~人間って」
「それな」